『漂流』で初めて知った「アナタハン島の女王」事件*


少し前に吉村昭著『漂流』を読み終わり、
そのことをここに書きました。

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今日はその続き、いや、余談の類いです。

この小説、頭に「序」が置かれています。
そこで著者はこう言います。

  私が、江戸時代の漂流者の記録に興味をもつのは、
 突然のように姿を現わす元日本兵に対する驚きが
 原因なのかも知れない。(6頁)

昭和30年代生まれの私は、グアム島から帰国した横井さん、
ルバング島から帰国した小野田さんのことは覚えています、
当時ニュースで何度も見聞きしましたから。

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吉村さんはそのお二人にも触れていますが、
記述の中心はアナタハン島からの帰還者のこと。

ネットで調べてみると、アナタハン島はサイパン島の北約120キロの小島で、
当時は日本の委任統治領である南洋諸島のなかの一島だったとのこと。
今はアメリカの自治領である北マリアナ諸島に属しています。

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敗戦の後、そこに男三十一人と女一人が残り、
その一人の女を巡って殺し合いが起こります。

  女を中心に、淫靡な生活がつづいたが、その間にもかれらに対する
 アメリカ軍の投降勧告は行なわれていた。(中略)アメリカ軍は、
 飛行機からビラをまき、小舟を岸に接近させて、戦争が終ったことを
 スピーカーで告げさせたりした。が、アナタハン島の日本人たちは、
 それをアメリカ軍の謀略と考え、戦争の終結を信じなかった。
  その間、女をめぐって刃物による殺人がつづき、「兵助丸」「曙丸」
 の両船長も病死して、三十一名の男は二十名に減っていた。
 (13頁)

「兵助丸」「曙丸」は、海軍に徴用され、昭和19年5月に横浜港を出港した
十六隻の漁船のうちの二隻です。
トラック諸島に向かう途中、米軍の攻撃を受けて沈没、
逃れた男たちが泳ぎついた島がアナタハン島でした。
翌日には、同じく米軍にやられた「海鳳丸」の乗員も同島に上陸します。


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その島にはもとからの住民であるカナカ族約四十名の他に
日本人がたまたま二人いました。
農園技師の男性と「南洋興業コプラ園に勤める男の妻」である女性です。
比嘉和子という名のその女性を巡って事件が繰り返されるわけです。

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昭和25年5月に女性はただ一人アメリカの船で島を出、数十日後日本に帰る。
それがきっかけとなって翌年の半ばには残っていた全員が帰国を果たします。
当時はその報道で大騒ぎだったとのこと。
特に女性は「アナタハンの女王」として小さな劇場を回るようになり、
彼女を主人公にした映画も作られたとのこと。
Wikipedia「アナタハン島の女王事件」にはこうあります。

 こうして、一連の怪事件はその後大々的に報道され、日本国内で
 「アナタハンブーム」となり女性のブロマイドが大変売れた。
 和子は「男を惑わす女」としても報道され、大衆の好奇の目に
 晒されたばかりか映画化も行われた。

なお、同じくWikipediaによると、その映画とはこの二作らしい。
 ・アナタハン島の眞相はこれだ!!
  (盛野二郎監督、新大都映画 1953年)
 ・アナタハン The Saga Of Anatahan
  (ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督、東宝 1953年)

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前者では本人が本人の役を演じており、後者ではプロの女優(根岸明美)が
その女性を演じているとのこと。
後者は YouTube で見ようと思えば見れるようですが、
今のところ見るためのエネルギーが足りず、見ていません。



私はその島もその島で起こったことも、
映画化が起こるほど話題になったことも全く知りませんでした。
私の他にも知らない人、多いような気がします。
それでここに書こうと思った次第です。


*タイトル中の「アナタハン島」が「アタナハン島」になっていたのを
 訂正しました。
 鍵コメさん、コメントをありがとうございました。
 (3月12日正午前)


Commented at 2026-03-12 10:15
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by chronoir2023 at 2026-03-12 11:39
鍵コメさん、ありがとうございます。
タイトルが「アタナハン島」になっていたのを「アナタハン島」に直しました。
当初は「あなたはん、アナタハン島ってご存じやろか」なんてタイトルにしようかと
思ったものの、あまりにベタに思われて止めたのでした。
「あたなはん、アタナハン島ってご存じやろか」にしなくてよかったです。
Commented by maya653 at 2026-03-12 17:17
載せてくださったYouTube見てしまいました
すると関連動画も出てきて、映画ではなくこの事件の解説動画もありました
こんな事があったんですね

そういえば私たち世代は、子供の頃まだ戦争の映画やドラマなどもあったし
横井さんや小野田さんのことも知っていますから
なんとなく戦争の残酷さや悲惨さも生身の人間としてある程度想像できるけど
今の若い人たちにとっては、ゲームのシーンのような感覚なのかもしれない気がしました

Commented by chronoir2023 at 2026-03-12 20:04
たまさん、コメントをありがとうございます。

私も見てみようと思います。
三十年以上も前、五歳年下の人と話していて戦争に対する感覚が自分とあまりに違うので
唖然としたことがあります。
今の若い人との違いは、それどころではないと推測されます。
恐怖を感じますが、仕方のないことだとも思います……。
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by chronoir2023 | 2026-03-11 19:50 | 読書 | Comments(4)

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