ユークリッドの公準ぐらいちゃんと確認してから訳して欲しい
2025年 03月 08日
私のこのブログ、ジャンル設定は「本・読書」と「おうちごはん」。
ですが、このところ「おうちごはん」の記事が大半で、
「本・読書」の記事はほんの僅か。
当然と言えば当然で、このところあまり本を読んでいないのです。
引っ越しに伴うばたばたが続いていたことに加え、
ギターの練習に使う時間が増えていることが二大原因となっています。
松江に越してきて一か月がすぎ、
そろそろ引っ越しのばたばたが始まる前のペース程度には戻りたいと思い、
まずは積ん読になっていた数冊中の一冊、
エマニュエル・トッドの『西洋の敗北』(大野舞 訳、文藝春秋、2024年)を読むことにしました。
読み始めると、これはなかなかの本。
家のスペース事情から極力本を買わないようにしている者としては、
衝動買いしてしまった本がよい本だと分るのは非常に嬉しいこと。
「なるほど!」と思ってしまう箇所が頻出します。
嬉しいのは、訳本にありがちな文意不明、両義的、
語Aが語Bと語Cのどれにかかるのか判断困難、
といった箇所がほぼないこと。
「トッド先生、やるなぁ、訳者もやるなぁ」と
身の程も弁えずに偉そうな感慨に浸りながら読み進めると、
アチャー、という箇所に遭遇。
たとえばユークリッドの第五公準は、「一つの点がある時、その点を通る平行線は
一本だけである」というものだが、これは証明することができないし、リーマンと
ロバチェフスキーらによる 非ユークリッド幾何学は別の公理から出発している。
しかしそれでも、人々の常識的感覚からすると、ユークリッドの第五公準は非常に
説得力がある。(32頁)
「アチャー」となった箇所を太字にしました。
これを「人々の常識的感覚からすると」「非常に説得力がある」と言うのですが、
私には全くそうは思えません。私の常識的感覚では説得力ゼロです。
ユークリッドの公準というのは見聞きしたことがある語です。
でも、その中身は記憶していません。
ただ、それについて言及されて内容が示されたとき、
「非常に説得力がある」と思ったことが何回かあったことは記憶にあります。
ですから、普通ならここでもそうなるはずなのです。
ユークリッドの公準は、まさに人々の常識的感覚に適うからこそ、
公準になっているはずですから。
一体何がどうなってるんだ!?
「平行線は一本」だって? 平行線は線が二本あってのものではないか!
私が数学に疎いから分らないだけで、
「常識的感覚」をそなえた普通の知性の持ち主には
この訳文で問題なく理解できることなのだろうか?
訳文?
そうだ、訳し方に問題があるのかもしれない。
そう気づき、原文が見れないものかとネット世界を探索。
すると、ありました。
この原書の24頁8~10行目に太字部分にあたる一文があります。
par un point donné on ne peut faire passer
qu’une seule parallèle à une droite donnée.
なーんだ、ちゃんと「à une droite donnée」とあるではないか!
直訳すれば「与えられた一本の直線に対して」。
つまり太字部分は
「ある線とある点があって、そのある点を通ってその線に平行になる線は一本しか引けない」
というような意味になるはず。
これなら、私の「常識的感覚」でも何とか分かる。
と、私の頭の中で警報が鳴り始めました。
この原文、何かが足りないんじゃ……?
戸惑っているうちに、うっすらと記憶が蘇ってきました。
家の中にある本でその公準が書かれているものあったはずなのです。
あちこち探すと、あった、確かこの本だったはず……。
頁をめくっていくと……、ありました!
直線Lと、その上にない点Pとが与えられたとき、
Pを通り直線Lに平行な直線 (平行線) が、
ただひとつ存在する。
(『不完全定理』野崎昭弘、日本評論社、1996年、41頁)
つまり、図示すればこういうことでしょう。
やっとすっきり。
トッド先生は「ある点」が「その線の上にない点」であることを省いた、
あるいは書き忘れた。
で、不十分、不正確になった。
そして、それだけだったらまだよかったのだが、
訳者は原文にある「 à une droite donnée」を省いてしまった。
で、意味不明になった。
それが真相というわけです。
キズのない訳本などこの世に存在するはずはないし、
この程度のキズは小さなキズとも言えるでしょう。
この公準は、一種の比喩として使われているだけで、
文脈上の重要性は高くないのですから……。
でも、今の私の正直な気持ちを言うと、こうです。
ユークリッドの公準ぐらいちゃんと確認してから訳して欲しい。
なんせ、公準なんですから!
すっかり寄り道してしまいましたが、このあと32頁以降を読もうと思っています。
そこんとこ飛ばし読みしてましたなあ、なんしろカラツキシ数学音痴なもので。
1
佐平次さん、コメントをありがとうございます。
私も相当な数学音痴なのですが、これは意味がとれなくて癪に障り、ヒマに任せて確認しました。
ヒマでなかったら、あとで確認するかと線を引くか付箋を貼るだけして、
結局そのまま忘れてしまっただろうと思います。
なんせこの本の本筋のことではありませんので。
私も相当な数学音痴なのですが、これは意味がとれなくて癪に障り、ヒマに任せて確認しました。
ヒマでなかったら、あとで確認するかと線を引くか付箋を貼るだけして、
結局そのまま忘れてしまっただろうと思います。
なんせこの本の本筋のことではありませんので。
私も数学は面白くないと思う方なんですが、
初めの文章の点を貫くのではなく、
点の上を触って通る1本の線の平行な線は
1本と解釈」していました。
だから何?と言う感じで
数学は好きではありませんでした――ー
初めの文章の点を貫くのではなく、
点の上を触って通る1本の線の平行な線は
1本と解釈」していました。
だから何?と言う感じで
数学は好きではありませんでした――ー
>直線Lと、その上にない点Pとが与えられたとき、
Pを通り直線Lに平行な直線 (平行線) が、
ただひとつ存在する。
確かにそうですよね。けどそれが何やねんって感じです。
訳本はこういうことがあるから苦手。きっと何か変な翻訳本に最初に当たったのかもですね。
Pを通り直線Lに平行な直線 (平行線) が、
ただひとつ存在する。
確かにそうですよね。けどそれが何やねんって感じです。
訳本はこういうことがあるから苦手。きっと何か変な翻訳本に最初に当たったのかもですね。
rui-asamiさん、コメントをありがとうございます。
私は中学生までは結構数学好きだったのですが、
高校2年ぐらいからそれは苦行を強いるだけのものになりました。
数ⅡBまででやめた私と違って同じく文系なのに数Ⅲまでやった友人がいて
仰ぎ見つつも、「なんとまあ、もの好きな……」と思ったものです。
でも今では、数Ⅲまでやればよかったとたまに思うことがあります。
私は中学生までは結構数学好きだったのですが、
高校2年ぐらいからそれは苦行を強いるだけのものになりました。
数ⅡBまででやめた私と違って同じく文系なのに数Ⅲまでやった友人がいて
仰ぎ見つつも、「なんとまあ、もの好きな……」と思ったものです。
でも今では、数Ⅲまでやればよかったとたまに思うことがあります。
totiさん、コメントをありがとうございます。
>けどそれが何やねんって感じです。
本筋でないところに数学の話などを持ち出したがる著者がときどきいます。
読者を煙に巻きたいのかも知れませんが、
書くからにはいい加減なことは書かないで欲しいと思います。
>きっと何か変な翻訳本に最初に当たったのかもですね。
学生の頃に超有名で頁少なめの政治系の英語本を苦労しながら読んでいて、
どうしても分らない一文があったので何版も重ねている文庫の訳本を買ったら、
なんとその箇所だけ訳さずにすっ飛ばしていました。
それまでは翻訳本なるものを何の疑いも持たずに読んでいたのですが、
その後は、多少なりとも疑いの目を持ちつつ読むようになりました。
>けどそれが何やねんって感じです。
本筋でないところに数学の話などを持ち出したがる著者がときどきいます。
読者を煙に巻きたいのかも知れませんが、
書くからにはいい加減なことは書かないで欲しいと思います。
>きっと何か変な翻訳本に最初に当たったのかもですね。
学生の頃に超有名で頁少なめの政治系の英語本を苦労しながら読んでいて、
どうしても分らない一文があったので何版も重ねている文庫の訳本を買ったら、
なんとその箇所だけ訳さずにすっ飛ばしていました。
それまでは翻訳本なるものを何の疑いも持たずに読んでいたのですが、
その後は、多少なりとも疑いの目を持ちつつ読むようになりました。
>どうしても分らない一文があったので何版も重ねている文庫の訳本を買ったら、
なんとその箇所だけ訳さずにすっ飛ばしていました。
そこまで追求する姿勢がすごいですね。私はそういう疑問は途中で投げ出しました。
1980年代、記号学や記号論の『構造と力 記号論を超えて』が話題になったのでしょうね、私は未読ですが、そういうことを言う人にビックリしたものです。
なんとその箇所だけ訳さずにすっ飛ばしていました。
そこまで追求する姿勢がすごいですね。私はそういう疑問は途中で投げ出しました。
1980年代、記号学や記号論の『構造と力 記号論を超えて』が話題になったのでしょうね、私は未読ですが、そういうことを言う人にビックリしたものです。
by chronoir2023
| 2025-03-08 19:30
| 読書
|
Comments(8)












