ラフカディオ・ハーン その9


<その8>と同じく、『八雲の妻』(長谷川洋二、今井書店、2014年)
印象に残ったことをもとにして書きます。
今回は、セツ夫人の実母チエの話です。

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ただ「母」と言わずに「実母」と言うのは、
セツは誕生七日目に親戚の家に養女に出され、
実母とは別に養母がいるからです。

養母トミは働き者で好人物。
出雲大社の神官の家で育ったので、いろいろな話を知っていて
物語好きのセツを喜ばせます。
一方、実母チエは家老の娘で、お嬢様育ち。
この人の人生がなかなか興味深い、
びっくりさせらることがいろいろとあります。
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チエは、「御家中(ごかちゅう)一番の御器量」(12頁)と言われた、
「稀に見る器量の持ち主」(56頁)

とのことなのですが、56頁に載っている写真を見ても、
その美しさが私にはよくわからない。
若いときの写真ではないからということもあるでしょうが、
現代人である私から見ると、その姿から若い頃を想像しても
上記の「 」内の形容がピンときません。

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59頁に「鳥居清長が描く錦絵の美人のような容姿」とあり、
ネットでその浮世絵師が描いた女性を見ると、なるほどと思うとともに、
当時と現在との日本人の「美人」の基準の差を強く感じます。

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それはともかく、当時は美しい女性として有名だったとのこと。
で、嘉永三年(1850年)2月、満13歳になる少し前に高位の武士の家に嫁ぎます。
家老の娘で美人、芸事にも堪能、とくれば、そういうことになるのでしょう。
それで、<幸せに暮らしました>ということになればいいのですが、
気の毒なことにそうはなりませんでした。

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嫁いだ日の夜、つまり所謂初夜にとんでもないことが起きます。

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寝所(しんじょ)で待つが、新郎が来ない。
と、庭からただならぬ物音が……。
チエは懐剣を手にし、侍女を従えて姑のところに行き、
取り乱すことなく、落ち着いた声で言います。

 「母上様、御寝なさいましたか。夜中お騒がせ申し相済みませぬが、
 旦那様には未だ御床入りがなく、 しかも、ただ今、お庭前にて、
 ただならぬ物音が致しました」(57頁)

で、家中のものが庭に出てみると、なんと、
新郎は庭で腰元と心中していました。

 花婿なる男は、愛していた腰元の首を打ち、 
 自分も腹を切って果てたのである。(57頁)

「腰元」とは雑用をする侍女のこと。
男とは身分が大きく違います。
だから、結婚できない。
ならば、あの世で、ということだったのでしょう。

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横溝正史原作の映画だかドラマだかの
血みどろの場面を思い浮かべてしまいます。
おぞましい!

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そりゃ、気の毒ですよ。腰元さん、かわいそうです。
でも、自分が男だからでしょうか、男の方にはかわいそうだという気持ちが起こりません。
それどころか、他に手がなかったのかと思ってしまいます。
厳しい時代に生きていない者のお気楽で勝手な言い分かも知れませんけど。

チエの結婚生活は、始まる前に破綻したのですが、
そのような事件に冷静に対処したことでチエは周囲から称賛されます。
そして、翌年の秋に、三百石の小泉家に嫁ぎます。

今日はここまでにして、近日中に続きを書きます。


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by chronoir2023 | 2025-01-21 20:47 | 読書 | Comments(0)

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