「可もなく不可もなし」のもう一つの意味を知らなかった私


相変わらず生業と家事に追われています。
追われていると、本を読んだり考えごとをしたりする余裕がない。
ないくせに、そういうときに限って、あるいはそういうときだからこそ、
本が恋しくなります。

でも、時間がない。
そういう時に私がよくやるのが、書棚の本を抜き出してぱらぱらと捲り、
自分が線を引いたところを拾い読みすること。

「可もなく不可もなし」のもう一つの意味を知らなかった私_f0405897_22122118.jpg











それだけで、当面は欲求不満が解消されます。

今日手に取ったのは、岩波文庫の『論語』(金谷治訳注)。

「可もなく不可もなし」のもう一つの意味を知らなかった私_f0405897_20472115.jpg






















ぱらぱらめくると、意外なことに線が全くない!
10代後半から20代の初めにかけて愛読していたはずなのに、なぜ?

奥付を見ると、初版は1963年ですが、それは1982年の第26刷。
1982年ならば、私は20歳を過ぎています。
なぜ?
「可もなく不可もなし」のもう一つの意味を知らなかった私_f0405897_20191205.jpg






不思議に思って、記憶を辿っていくと、朧気ながら思い出しました。
その頃ときどきパチンコに行っていて、
本を忘れてそのままにしたことがあった、それが金谷版の『論語』だ! と。

「可もなく不可もなし」のもう一つの意味を知らなかった私_f0405897_20483165.jpg










孔丘先生に申し訳なきことながら、線をさんざん引いた『論語』は
遊興施設に置いてきてしまったのでした。

「可もなく不可もなし」のもう一つの意味を知らなかった私_f0405897_20472158.jpg









そうそう、線を沢山引いた「真面目な本」を
パチンコ店に取りに行くのが恥ずかしく、
行かないままにしてしまい、でも、その本は手もとに置いておきたくて
あらためて購入したのでした。

今だったら堂々と取りに行くところですが、
当時はまだ子どもっぽい恥ずかしがり気質が残っていたもので……。

「可もなく不可もなし」のもう一つの意味を知らなかった私_f0405897_21403217.jpg








それはともかく、せっかくなので、
気を取り直してえいやっと頁を開いたら、
256~257頁の見開きでした。
「逸民」から始める節で、伯夷叔斉が出てきます。
そのことは朧気ながら覚えていたのですが、
最後のところに来てびっくり。
こうあります。

 可も無く不可も無し

えーっ、この言葉、『論語」にあったの?!
本当に愛読していたのか?
かなり怪しくなってきました。
「可もなく不可もなし」のもう一つの意味を知らなかった私_f0405897_21440152.jpg








「可もなく不可もなし」は、普段私が結構使う言葉です。
良くも悪くもない、という意味で使っています。
しかし、『論語』のその箇所を見ると、そういう意味で使われているとは思えません。

金谷版のその箇所の訳は、
「進もうときめもしなければ、退こうときめもしない〔ただ道義に従って進退自在だ〕」
となっています。

仕事に追われているのも忘れて、手元にある他の『論語』もいくつかチェック。

「可もなく不可もなし」のもう一つの意味を知らなかった私_f0405897_21012703.jpg 




















 私は一定して容認するものもなければ、一定して容認しないものもない。
         (吉川幸次郎『中国古典選5 論語(下)』朝日新聞社、1987年、84頁)

「可もなく不可もなし」のもう一つの意味を知らなかった私_f0405897_20472128.jpg

 



















 つかえるべきときにつかえ、つかえてはならないときはつかえない。
 一定の決まりに拘泥しないのだ。
               (貝塚茂樹訳注『論語』中公文庫、1975年、531頁)

「可もなく不可もなし」のもう一つの意味を知らなかった私_f0405897_21020852.jpg





















 可とすべき時は可とし、不可とすべき時は不可として、
 可と不可とを初めから心に存しないのである。   
     (宇野哲人『論語新釈』講談社学術文庫、1980年、569頁)


ますますびっくり。

「可もなく不可もなし」にそんな意味があったとは!

会員登録している<japanKnowledge>で『日本国語大辞典』を見ると、
「かも無く不可も無し」が立項されていて、こうあります。
「可もなく不可もなし」のもう一つの意味を知らなかった私_f0405897_21461328.jpg








 (1) 言行にゆきすぎや不足がなく適切である。中道を得ている。
 (2) 特によくもなく、また、悪くもない。欠点もない代わりに、
   取り立てていうほどの長所もない。平凡である。
     
言うまでもなく『論語』で使われているのは (1) の意味で、
私が普段使っているのは (2) の意味で、です。

本来は (1) の意味だった言葉が別の意味に使われるようになって定着した、
そういうことであろうと推測しますが、確信はありません。

忙中閑あり、奇しくもいい気晴らしになりました。


Commented by saheizi-inokori at 2024-11-18 22:08
ありがとう。私も初めて知りました。
Commented by toti2024 at 2024-11-19 09:30
そういうことがあるのかもしれないし ないのかもしれない   に通じますかね。

そんなことあるわけがない、と決めつけないでいてほしいと常日頃思っています。
Commented by chronoir2023 at 2024-11-19 14:42
佐平次さん、コメントをありがとうございます。

佐平次さんもご存じなかったと伺って自分の無知を恥じる気持が弱まりました。
とはいえ、安心しないでもっと読み、もっと考えないと、と思います。
Commented by chronoir2023 at 2024-11-19 17:06
totiさん、コメントをありがとうございます。

>「そういうことがあるのかもしれないし ないのかもしれない」
そういう意味にとれなくもないですね。
確かに! と思いました。
Commented by rui-asami at 2024-11-19 17:19
大変勉強になりました。言葉の意味って
受ける人によって違うということもおもしろいことですね。
受けるだけでなく発するひとの言葉の意味もですよね。
totiさんの言われるように、決めつけるというのは嫌だし、反対します。      
Commented by chronoir2023 at 2024-11-19 22:47
rui-asamiさん、コメントをありがとうございます。

耳にしたり目にしたりした言葉の本来の意味を知ろうとすることの大切さとともに、
誤解であれ正解であれ、専ら自分の責任において、その言葉を自分がどう受け取り、
どう扱うのかということを昔からときどき考えます。
考えるだけで、殆ど成果はないのですが……。
名前
URL
削除用パスワード
by chronoir2023 | 2024-11-18 21:54 | 読書 | Comments(6)

日々の暮らしの中で感じたことや考えたことを書きます。


by chronoir