『夏の災厄』を再読で楽しむ
2024年 06月 05日
先月の末に二泊三日で松江に行き、
納屋の改造の打合せをしてきました。
往復の電車の中で読む本として篠田節子さんの『夏の災厄』を持っていきました。
二年ほど前に一度読んだ本です。
埼玉県の架空の市を襲った新型ウイルスによる感染症を扱った小説です。
この本の再読なら、時間つぶしには十分だと思ったのです。
しかし実際は、その本だけでは時間つぶしには十分ではなく、
飲み食いは除外しても、その本だけでは間が持てず、
MP3プレーヤーでYouTubeの音声を聴くのと、窓の景色を眺めるのとの
三つを順不同で組み合わせて車内での往復で計11時間ほどを過ごしました。
そんな風では、600頁弱の文庫本は読み終わらず、
残りは帰宅してからということになり、
数日前に読み終わりました。
車内の時間つぶしには不十分でしたが、
十二分に面白く読みました。
二年ほど前に読んだくせに、はじめて読むとしか思えない箇所が結構あり、
自分の読書のいい加減さと記憶力のなさにあらためて呆れましたが、
そのおかげで再読する楽しみが高まるのだからかえっていいではないか、
と思わないでもないのです。
少なくとも、小説についてはそう考えてもいい気がします。
この本は1995年に毎日新聞社から単行本として刊行されています。
そのあと98年に文春文庫版が出、
私が読んだ角川文庫版は2015年の刊行で、
文春文庫版に修正と加筆を施したものとのこと。
単行本と文春文庫版は見ていないため、
修正と加筆がどの程度のものかは不明です。
コロナ騒動は2020年の初め頃からでした。
現実に騒動が起こってしまうと、小説に描かれた世界は絵空事に見えるかというと、
全く逆で、そのあまりの現実感に圧倒されます。
少し引用してみます。
「わかっとると思うが、法定伝染病の患者は、強制隔離される。
感染力の強弱に関わりなく、 憲法に保障された移動の自由を
きわめて合法的に奪われる。どうだね、 医者というのは、時と
場合によっては恐るべき権力を与えられているとは思わんか」
(430頁、件のウイルス作成に関わった老ウイルス研究者の発言)
「何の副作用が出るかわからないでしょう。 わからないまま
人間に打っちまうなんてのは、発展途上国の話だよ。 日本は
人の命の値段に関しては、間違いなく先進国の部類に入るから
ね。副反応の健康被害訴訟なんて起こされたら大変でしょう」
(521頁、新型のバイオワクチンの供給を促された製薬会社の営業マンの発言)
「接種後は、発熱します。丸一日間は、運動、飲酒、入浴、
車の運転等を避け、安静にすること」
通常の予防接種ではありえない注意書きである。
さらに異常な副反応に対応するため、接種会場に救急車を
待機させる手筈を整える。
(578頁、市民への新型ワクチン集団接種が決まった場面で)
「あんたの命は少なくともこの夏は大丈夫だね、もっとも
副反応が出なければの話だが」
七十をとうに過ぎた皮膚科医にのんびりした口調で言われて、
所長はちょっと嫌な顔をした。
所長の接種が終わると、老医師は後ろに並んだ保健師の一人
に向かって尋ねた。
「君、妊娠していないか?」
妊娠は、予防接種の禁忌である。
「めっそうもない」
定年間際の保健師は真面目な顔で首を振った。
(580頁、集団接種に関係する市の職員が一般市民よりも一日早く接種を受ける場面で)
ところで、巻末の解説で、解説者(作家にして医者でもある海堂尊という人)が
篠田作品の特徴を四つあげています。
①文体が端正である
②登場人物を誰も切り捨てない
③舞台の二重性と日常の異次元化
④ディテールと深度と精度
(592~594頁)
確かに、と思いました。
特に、②は篠田作品のよさを顕著に示す特徴だと思います。
篠田さんが描く登場人物は、主役も脇役もみな私を魅了する独自の力をそなえています。
小説を読んでいて、「あの人は結局どうなったんだ?」とか
「この人の扱いがぞんざい」とか言いたくなることが間々あり、
そうなると、その小説を気持ちよく読み終わることに支障が生じますが、
篠田さんの小説ではそういう経験をしたことがありません。
最新作の『ドゥルガーの島』は、篠田さんの小説にしては珍しく、
今ひとつに感じられましたが、次作の刊行が楽しみです。
しばらくは、手持ちの既刊小説を再読で楽しむことにします。
次は『弥勒』をゆっくり読もうかな……。
名もなきホームレスを名探偵が、証拠でっちあげのために焼き殺す、そういう推理小説を読んで、拙ブログでも批判したことがあります。
2
佐平次さん、コメントをありがとうございます。
コナリーの『鬼火(The Night Fire)』のことですね。
2022年 01月 11日の<勢揃い次郎長一家 「鬼火」(マイクル・コナリー)>を拝読して分りました。
10年近く前、コナリーの小説にはまっていたことがあるのですが、その本は読んでいません。
調べたら2019年の作品ですから、当然でした。
怖いもの見たさで読んでみたくなりました。
コナリーの『鬼火(The Night Fire)』のことですね。
2022年 01月 11日の<勢揃い次郎長一家 「鬼火」(マイクル・コナリー)>を拝読して分りました。
10年近く前、コナリーの小説にはまっていたことがあるのですが、その本は読んでいません。
調べたら2019年の作品ですから、当然でした。
怖いもの見たさで読んでみたくなりました。
I am reading the bunko version now. From Bangladesh. I was hoping for a English translation, I am not good at Japanese, not at all. I'm studying N4 now.
Hi、Mr. Redwan! Thanks for your comment.
Are you referring to Shinoda's novel『夏の災厄』?
If so, It is a great pity that there are no English version of that Excellent novel.
I hope you will read the bunko version slowly but surely to the end.
Are you referring to Shinoda's novel『夏の災厄』?
If so, It is a great pity that there are no English version of that Excellent novel.
I hope you will read the bunko version slowly but surely to the end.
by chronoir2023
| 2024-06-05 21:48
| 読書
|
Comments(4)






