『ホイッスル』読了


先月の8日にさくらんぼさんがブログ「もちろんしあわせ」で紹介されていた
藤岡陽子さんの小説『ホイッスル』を、今日読み終わりました。

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この作家さんはお名前も知りませんでした。
さくらんぼさんの
「途中で読むのやめようかと思いました。気分悪くなるのです」
「最後はいい終わり方」
「最終的には、読んでよかったのですけどね」
という言葉にひかれて、読んでみたくなったのです。

確かに読んでいるうちに、相当に気分が悪くなってきました。
主要人物の一人、中年看護師沼田和恵が
人としてのよさを何一つ感じさせない人物で、
この人が発する黒々としたものが頁から湧き上がってくるかのよう。
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さらに、入院中にその和恵に惚れ込んでしまい、
非があるわけでもない妻聡子を捨てて
突然出て行ってしまった高齢男性園原章、
この人がまたひどい。

妻と住んでいた家を勝手に売ってしまって、
妻は立ち退きを強いられます。
相思相愛どころか、和恵にとって章は金ヅル。
しかも、和恵には夫と二人の息子がいるのです。

この章という男、あまりにも愚かで、読んでいると、ムカムカしてきます。
この人物は、和恵とはまた別の何か嫌なものを湧き上がらせているかのよう。

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でも、私も途中で止めることはせず、最後まで読みました。
「いい終り方」が待っていると分かっていたからそれを期待して、
ということもあったには違いないのですが、
嫌な人物の嫌さが嫌になるほどよく伝わってくる書き方がされていて、
それがある種不健全な、苦みや痛みを伴う快感をもたらしたから、
ということもあったように思います。

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ある日、聡子の弟信一とその娘優子が、章の住む安アパートを探し当て、
様子を見に行くのですが、けんもほろろの対応をされます。

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信一は、優子が中学生の時に妻を病気で亡くしていて、
そのあとずっと娘の優子と二人暮らし。
二人とも聡子とは仲がいい。

その時の、章と信一の会話。
章の科白「過去や短い未来~」は、さくらんぼさんも引いておられました。

 「あんたもあと十年もすればおれの気持ちがわかるよ、
 いや、あと五年もすればわかる」
 「いえ、わからないと思います」
 「わかるんだよ。過去や短い未来……そんなもんどう
 でもよくなってくる日々を送るようになったらな、
 自分の人生最後の欲求を存分に満たしたくなるんだ。
 それが人間なんだ」(157頁)

「それが人間なんだ」
出た出た、手前勝手な一般化。

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人間だもの、非のない妻も捨てるし、
人間だもの、家は勝手に売っちゃうし、
人間だもの、愚かな女性のいいなりになっちゃうよ、
しょうがないよ、人間だもの。
あ~あ。

愚かな人の愚かな言いわけ。

愚かな人の姿を眺め、その愚かさに不愉快になった分、
自分がそういう愚かさに沈み込まないための免疫ができる。
小説に効用を見出すのは無粋とは思いつつ、
読み終わって、そんなことを思いました。

この小説は、悪意のない普通の人たちと、そういう人たちであることの仕合わせ、
あまりに愚かで迷惑な人たちと、そういう人たちであることの不仕合わせ、
その対比を楽しめる小説、そんなふうにも言えると思います。
作者の意図はどうであれ。

私は結構好きです。
さくらんぼさんと同じく
「読んでよかった」と思いました。

さくらんぼさん、ありがとうございました!


Commented by yuminihonshi at 2024-02-04 05:47
読んでよかったと言っていただけてよかったです。
藤岡陽子さんは好きな作家さんです。
この本はちょっと特殊かな。
よかったら他のものも読んで見てくださいね。
しかし、こんな嫌な女、馬鹿な男に書ける力もすごいですよね。
Commented by chronoir2023 at 2024-02-04 09:38
さんくらんぼさん、コメントをありがとうございます。

実は昨日、図書館で二冊借りてきました。
「晴れたらいいね」と「きのうのオレンジ」です。
今日の夜から「晴れたらいいね」を読み始めます。
楽しみです。
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by chronoir2023 | 2024-02-03 21:56 | 読書 | Comments(2)

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