番組卒業とは何の謂ぞ


今日の朝、ヤフーニュースをあれこれ見ていたら、
ドラマ『相棒』に関する記事に出くわしました。
水谷豊とその二代目相棒を演じた及川光博との仲を中心に
書かれた記事でした。

面白く読みました。

私は『相棒』を、寺脇康文が初代相棒をしていた時代の途中から見始め、
三代目相棒が登場した時点で見るのをやめました。
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二代目神戸(及川)にかわって間もなく、
亀山より神戸の方に好感を持つようになりました。
今もこのドラマの録画をときたま見ますが、
亀山時代のものより、神戸時代のものの方が面白く感じます。
ストーリーの良し悪しに差は感じないのですが、神戸(及川)がいいのです。
『相棒』における及川さんは、見かけによらず(?)役者バカに見えます。
<私が、私が>という感じがまったくしません。
なお、「役者バカ」は、私にとっては、役者に対する最大級の賛辞です。
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寺脇さんは、好演してはいますが、
役者バカには見えません。
及川さんが役そのものに見えるのと違って、
寺脇さんは亀山を演じている寺脇さんに見えます。

『相棒』を見るまで、私は寺脇さんを見たことがなく、
及川さんは、CMか何かで見かけたとがあるだけでした。
それなのに、そういうことになります。

三代目の人は、見た瞬間、その目つきが私にはどうもダメで、
その時点で、そのシーズン以降のこのドラマを見るのは止めました。
その人の目つきが、昔私が知っていた厭な人物のそれにたまたま似ていた、
ということであって、俳優さんの人柄や演技の問題ではありません。
人柄も演技も知らないのですから、当然です。

さて、ついつい、<『相棒』とわたし>みたいなことを書いてしまったのですが、
ここに書こうと思ったのは実は別のことです。

記事の中にこんな文章がありました。
太字は、私が強調のためにそうしました。

  シーズン7の最終話から登場して3年、神戸尊は右京の相棒となり、
 数々の事件を解決に導いてきた。『相棒』ファンは亀山薫ロスから
 立ち直り、尊の活躍を見守ってきたものの、シーズン10を最後に、
 尊の卒業が発表された。

また出たよ、「卒業」が。あ~あ。
そう思いました。
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いつからこう言う使い方がされるようになったのでしょうか。
テレビ番組に関する記事で特によく見かけます。
そのたびに、違和感、ときにはそれに加えて多少の不快感が私を襲います。

ずいぶん昔、はじめてそれを見るか聞くかしたときは、
出演終了、担当終了の類い、
あるいは、降板、交代、引退の類いを
ちょっと面白く言い換えているという感じにとれ、
違和感や不快感を覚えるほどのものではなかったと記憶しています。

それがいつの間にか、頻用されるようになりました。
ネットで検索すれば、いくらでも出てきます。

 成宮寛貴演じる甲斐享が “相棒”を卒業!

 来年3月での「笑点」卒業を発表した林家木久扇

 TBS「THE TIME’」キャスターが番組卒業発表

これらも同様の反応を私の中に呼び起こします。
この違和感、不快感の原因はなんだろう。
それを考えてみようと思ったのです。

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手もとにある『明鏡国語辞典 第三版』で「卒業」を引くと、こうあります。
「 」内は用例です。

 ➊定められた課程を学び終え、その学校を去ること。
  「卒業式」
 ➋ある段階を体験して通り過ぎること。
  「もうテレビゲームは卒業した」

卒業の本来の意味は、
学業をはじめ、ある課程なり段階なりを終えることであり、
その先に卒業したからこそ行ける、ランクが上の何かがあることが
暗に想定されていると言っていいでしょう。

小学校を卒業すれば、小学校より上級の学校である中学校に行く、
高校であれ、大学であれ、なんであれ、学校を最終的に卒業すれば、
大半の人が社会人になるわけです。
➋の用例は、「テレビゲーム」は止めてもっと高度のゲームに移行するか、
「テレビゲーム」より有意義なことをする、という含みがあるものと思われます。

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で、ある番組を「卒業」するとは、どういうことでしょう?
その番組に出演することは、次のランクへの一段階だったのでしょうか?
それは修業だったのであり、今それを終えるということなのでしょうか?
本人や本人に寄り添う関係者にとってはそうであるかもしれません。
また、その人のファンは、その番組をステップに、
そのあと別の番組に出てもっと脚光を浴びてほしいと思い、
「卒業」という言い方に共感するかも知れません。
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しかし、その人はその番組にプロとして出ていたのです。
視聴者は、その番組を、その人のプロの仕事がイヤでないからこそ見ていたのです。
「卒業」と呼ぶことは、その番組を蔑むことになりませんか?
その番組を楽しんでいる人を蔑ろにしていることになりませんか?
私は、なる、と思います。
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例えば、会社のある部署にいた人が別の部署に異動したとして、
もとの部署を「卒業」したと言うでしょうか。
異動先の方がよい、異動先の方が偉いと本人や周囲の人が思っていれば、
内輪では言うかも知れません。
しかし、内輪の範囲外で言うのはヘンでしょう。
もとの職場を蔑むことになりますし、公私混同の悪臭がします。

ある番組を卒業するという言い方は、
公私混同、仲間褒め、自己愛、甘え、
そのいずれもが過ぎるのではないでしょうか。
私の違和感、不快感の原因はその「過ぎる」にあると思われます。

さらに言えば、このことと、
ジャニーズ事務所とマスメディアとの癒着とは
通じるものがあると思います。


Commented by daikatoti at 2023-10-20 11:22
私も相棒の相棒は及川さんが一番いいです。
今よく使われますね、卒業って。自分では使う気は全くないですね。
私も一つとってもイヤな言い回しがあるんですが、またブログに書きます。
こういうの気になると気になるものです。

コメント見逃してて失礼しました。入れておきました。
Commented by chronoir2023 at 2023-10-20 11:58
totiさん、コメントをありがとうございます。
totiさんが嫌いな言い回し、ぜひ知りたいです。
このブログで私が使っていなければいいのですが……。
Commented by sabertiger54 at 2023-10-21 13:14
初めまして、いつもイイネありがとうございます
私は「相棒」は第1シーズンの前の「土曜ワイド劇場」のスペシャルドラマの時から観てますが(再放送)。確かに二代目神戸尊の時が一番面白く、レベルも高かったと思います。三代目は確かにヤンチャなイメージもあるし、私はいじめられっ子だったので空気感としてはわかります。
四代目反町隆史からは観なくなりました。明らかに作品の質は落ちたし、どんなに面白いドラマでも長くやっていれば飽きが来る。経年劣化は避けがたいですよね。芦名星さん鑑賞のためだけに診てたかもしれない。

「卒業」は仰っしゃられる通りだと思いますが世間では単に抜けるぐらいの軽いイメージとして使ってるのでしょう。最初はアイドルグループのメンバーの脱退あたりから言われたと思いますがおそらく使い勝手がいいんでしょうね。基本的に言葉の意味がSNS時代以前に比べて明らかに軽くなった。言葉の意味や強度は明らかに弱くなってるし、また世間もあまり気にしていない。例えば「末路」という語も今は肯定的な意でも使われています。
おそらく、言葉の意味を吟味するとかそういう感性・感覚というものを必要としなくなったのでしょうね。だからこそ〈衰退国家の片隅で〉を読むとそれと正反対のものを感じて感動を覚えるのです。
Commented by chronoir2023 at 2023-10-21 20:02
サーベルタイガーさん、コメントをありがとうございます。
サーベルタイガーさんのブログ、はっとさせらることが多く、
拝読するのを楽しみしています。

>最初はアイドルグループのメンバーの脱退あたりから言われたと思います

確かにそうだったような気がしてきました。

>おそらく使い勝手がいいんでしょうね。

これはもう全くその通りだと思いました。
婉曲表現もどきとして自分たちに都合のよい言葉なのだと思います。

>明らかに作品の質は落ちた
>芦名星さん鑑賞のためだけに診てたかもしれない。

芦名さんが出ているとなれば、見てみたい気はあるのですが、
いまだ決心がつかずにいます。
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by chronoir2023 | 2023-10-19 19:49 | 言葉 | Comments(4)

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