子供の神様


数日前に、昔出会った二人の男性のことを書きましたが、
今日は、同じ頃に出会った三人の子供たちのことを書きます。

数日前にも書きましたが、40年以上前、
新卒で入った会社で営業部に配属され、
北関東のある県の担当になりました。
1週間単位で県内のビジネスホテルに泊まり、
県内のあちこちで営業活動をします。

私は、強度近視と強度乱視です。
左目は特にひどく、0.02未満。
ましな方の右目でも、0.05程度です。

中学2年までは眼鏡をかけていたのですが、
左右の視力差が大きいため、見づらい上に疲れがひどく、
あるとき、眼科医に
「あなたの場合、眼鏡だと日常生活を送るのはかなり厳しい。
あなたのような人のためにコンタクトレンズがあるようなものです」
と言われ、それ以後コンタクトレンズを使うようになりました。

劣等生ながら教習所を卒業し、運転免許が取れたのは、
コンタクトレンズのおかげでした。
眼鏡では、視力検査を通ったかどうか怪しく、
もしぎりぎり通っても、運転技量によほど自信がない限り、
怖くて運転できなかったと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

子供の神様_f0405897_16005577.jpg











営業活動中のある日の夕方、
新興住宅地内の車があまり通らない道路の脇に停車し、
外に出てトランク内の整理を始めたところ、
封筒の角が目に当たり、左目のコンタクトレンズが外れて落ちてしまいました。

車外に落ちたように思う一方、未整理のトランク内に落ちた可能性もあります。
数日前に書いたパンクしたときと同様、暗くなり始める時刻が近づいています。
眼鏡はありません。持っていません。

子供の神様_f0405897_15335544.jpg











とにかく、車のそばの路上を探し始めました。
なかなか見つかりません。
どこに落ちたか分からない上に、目がよく見えていません。
最終的に見つからなければ、トランク内を捜索することになりますが、
どこで車外に見切りをつけるかが問題です。

ところが、このとき大きな問題が発生しました。
小学2年生ぐらいの男の子二人と女の子一人がどこからともなく現れて、
何の遊びなのか、私の車のそばで駆け回り始めたのです。
焦りました、コンタクトレンズを踏んで使えないものにされてしまう恐れがあります。

子供の神様_f0405897_20410511.jpg










「ちょっと、悪いけど、ここじゃなくて、あっちでやってくれない?」
周囲に同じような空間が広がっているのですから、
何もここで遊ぶ必要はないわけです。
三人は、動くのをやめて立ち止まりました。

私は、その三人を無視して、地べたを目でさらう作業を再開しました。
すると、女の子が口を開きました。
「おじさん、どうしたの? なにやってるの?」
私は作業を中断し、目を上げて言いました。
「コンタクトレンズを落としちゃったんだよ。
ここら辺に落ちたと思うんだけど、
君たちが踏んだりすると、割れてしまうかもしれないんだ。
だから、ここじゃないところで、遊んでほしいんだよ」

女の子はきょとんとした顔をして再び私に問います。
「それってどんなもの?」
「これくらいの大きさの、丸くて透き通ったものなんだけどね」
私は人差し指と親指で大きさを伝えました。

すると、それを聞いていた男の子の一人が、
「一緒に探してあげようか?」
と意外なことを言うのです。

渡りに船、三人は私と違って優秀な目をしているはずです。
「ありがとう、一緒に探してくれると助かるな。
でも、踏まないように気をつけないとダメだよ」

それから4人でレンズ探しが始まりました。
ありがたい反面、踏まれてしまう危険もあります。
でも、そんなことを気にしている場合ではないのです。
割れたら割れたでいい、そうと分かれば、次の方策を考えればいい、
方策があるかどうかを含めて。

子供の神様_f0405897_09562172.jpg












しばらく経って、女の子が
「あ、これじゃない?」
と地面の一点を指さしました。

あった!
思ったよりも、車から離れたところにそれはありました。
「そう、これだ! ありがとう!」

近くに水道の水が出るところは見当たらないので、
指と呼気で落とせるだけのホコリを落し、
口に含んで舌でなめ回し、目に戻しました。
とりあえずそれで誤魔化し、車で蛇口のあるところに行って、
水道水と車内に置いてある洗浄液とでしっかりと洗い直せばいいのです。

振り返ると、子供たちは、何もなかったかのように、
ちょっと離れたところで遊びを再開して走り回っています。

何かお礼ができないかと思って車内を探すと、
自分用に買ってあった未開封のガムがありました。
ささやかすぎるけど、何もしないよりはずっといいか。
そう思って、子供たちのところに行きました。

子供の神様_f0405897_15555322.jpg











「君たち、本当にありがとう。
あれがないと、運転ができなくて、どうしようもなかったんだ。
本当に助かった。本当にありがとう。
こんなものしかなくて悪いけど、みんなで、これ噛んで」
そう言って、一番前にいた男の子にガムを渡すと、
男の子は、歳に似合わず、こう言いました。
「なんだかかえって……」

そのあと、とてもいい気分、少し昂揚した気分で車を走らせながら、
ふと気づきました。
「なんだかかえって……」って、パンクを直してくれた人と同じセリフじゃないか、と。

子供たち三人も神様だったのでしょうか。


名前
URL
削除用パスワード
by chronoir2023 | 2023-08-01 15:27 | 不思議な出来事 | Comments(0)

日々の暮らしの中で感じたことや考えたことを書きます。


by chronoir