ベートーベンの「並の神経では耐えられない」音楽
2023年 06月 18日

十年近く前に石井宏さんの『ベートーヴェンとベートホーフェン』を
大変面白く読みました。
今でもときどき開いて、あちこち読み返しています。
興味深い話が満載ですが、その中でも私が一番面白かったのは、
最後の弦楽四重奏曲(第16番、作品135)の第2楽章の中間部の話です。
好きだと思っていたこの曲について自分がいかに無知かをあらためて思い知らされました。
石井さんは、その部分のスコアの大半を示し、下記のように言います。
「これを見て、だれにでも発見できることは、第二ヴァイオリンとヴィオラ、チェロ
の三人がそろって最初から最後まで同じ音の形を弾き続けているということであろう。
第一ヴァイオリンは一人でアサッテの音を弾いているが、あとの三人は同じ音を五十
回以上も黙々と弾き続けているのである。」
(同書p.400より。同書p.399にある楽譜の画像全体をここにコピペしたいところですが、
版面権絡みの問題がありそうなので、頭だけにします。これくらいなら許容範囲だと判断します。)

確かにゴソゴソとキリキリが聞える変わった音楽だとは思っていましたが、
こんなことになっているとは知りませんでした。
下三パートは、「ドラソラシ」(移動ドによる)をひたすら奏し続け、
第一ヴァイオリンはオクターブを超える跳躍を繰り返しています。
悲しいのは、ド素人の私には、スコアを見たあとでも、
第一バイオリンが繰り返している跳躍がオクターブ超えであることはよく聴き取れず、
以前通り、流れの悪い音楽を強引にキリキリ弾いていると感じるだけであることです。
さすがに、残りの三パートが同じ音形を繰り返していることは、耳でも分かるようになりましたが。
前に書いたモーツァルトの「リンツ」交響曲に第四楽章のあの部分は、
スコアを見ることで音楽が以前よりずっとよく聞えるようになったのですが、
こちらのほうは、そこまでは行かないのです。
なお、石井さんは「並の神経はこの異常さに耐えられない」と書いていますが、
私はちょっと変わった音楽、面白い音楽として、
耐えられないどころか、楽しんでいました。
今後もきっとそうでしょう。
ド素人ならではの並外れた無神経のおかげということになります。
最後に長めの蛇足を一つ。
上の引用文中の「黙々と弾き続けている」という言い方はどうなのでしょうか。
弾き語りでない限り、また、演奏しながらその音楽を口ずさまずにはいられない人でない限り、
楽器は黙って奏するもの。
それに、奏者は楽器を、しかもそれなりの音量で弾いているわけですから、
「黙々と」はこの文脈では違和感があります。
著者は、同じ音形の何十回ものくり返しを文句も言わずに律儀に弾いている、
という意味合いでこの言葉を使ったのだと思いますが、私の神経を少しだけながら刺激します。
「無神経」と言われた(?)腹いせに、ということではなく、
これはこれでちょっと面白いと思いましたので、書き添えました。
