ビルスマの「ジーバー事件」
2023年 06月 09日

一昨日、ビルスマのことを書いたのですが、
30年近く前、ビルスマのバッハ無伴奏チェロ組曲全曲演奏会に
行った時のことを思い出しました。
二夜かけて武蔵野市民文化会館小ホールで行われました。
ビルスマは自然体としか言いようがないような様子で現れて、
これまた自然体とでも言うしかないような感じで演奏しました。
音楽のすばらしさがじわじわと伝わってきました。
緩んで低くなった弦を、演奏を続けながら、
左手で巻いて調整したのを覚えています。
二日目、全曲演奏を終えた後、
何か一曲だけ演奏しますが、ご希望の曲がある方はいませんか、
あまり長くないのがいいですけどね、
というようなことをビルスマは英語で言いました。
すぐには声を上げる人がいない中、男性が「ジーバー」と言いました。
ビルスマは聞き返しましたが、相手は「ジーバー」と再び言うのみ。
ビルスマは困惑顔で、首を振ったのち、
それじゃあ自分が好きな曲にしましょうと言って、弾き始めました。
第三番のジークだったような気がするのですが、記憶がはっきりしません。
ビルスマが最後の最後まで何の飾り気もなく、
そのまんまのおじさんだったという記憶ははっきりとあるのですが。
ところで、「ジーバー」とは何だったのでしょうか。
思うに、男性は「G線上のアリア」のつもりだったのでしょう。
「上のアリア」をどういうかは推測できなかったものの、
「G線」は「G bar」だと推測したのでしょう。
「G線上のアリア」はチェロ用の曲ではないし、
「G線」は「G string」であって「G bar」ではなく、
しかも、「bar」は音楽用語としては小節を意味しますから、
推測は二重に間違っていて、ビルスマには通じませんでした。
もし通じていたら、どうだったか。
通じなくてかえってよかったのかもしれません。
